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No90 今年度の最後の金曜特別講座がありました。
東京大学教養学部主催のこの講座、2月9日(金)の講義は教養学部の寺田新先生による「トップアスリートの食事の秘密」というものでした。
寺田先生は早稲田大学のスポーツ科学科(所沢キャンパス)を卒業後、海外や食品メーカーで研究された経験をお持ちです。
スポーツ選手を支える学問分野としては、バイオメカニクス、スポーツ生理学、スポーツ医学、スポーツ心理学、スポーツ栄養学などがあり、そのうち栄養についてが今回のテーマでした。
1826年にブリヤーサバランが『美味礼賛(味覚の生理学、或いは、超絶的美食学をめぐる瞑想録)』のなかで“you are what you eat” あなたは食べたものからできている、と記述しており、スポーツ界では食事は作戦の重要な一部となっているようです。
近年、国際的にも結果を残している卓球界では20年位前からジュニア選手の栄養指導を続けているそうです。
ここからは生物というか家庭科の復習です。
【問】三大栄養素を挙げそれぞれの主な働きを記しなさい。という問題ですが、どうでしょう??
まず炭水化物(糖質)と脂質はエネルギー源、そしてタンパク質は体づくり(筋肉づくり)これが三大栄養素ですね。
これに加えて、ビタミンとミネラルを合わせて五大栄養素です。
さらに水を加える場合もありますね。
運動部の部員では、練習の後にproteinを摂取している生徒も少なくないと思います。
摂取の目安は1日あたり1.2~2.0g/kg体重だそうです。
体重が60㎏ならば120gとなります。
これを3回の食事+捕食の計4回に分けて摂取するといいとのことです。
ただ市販のproteinのサプリメントは高価なので、まず6つのお皿を揃えることを心掛けることを提唱されています。
①主食 ご飯・麺・パン
②主菜 肉・魚・卵・大豆製品
③副菜1 野菜・キノコ・海藻類
④副菜2 汁物(味噌汁・スープ)
⑤果物
⑥乳製品 牛乳・ヨーグルト・チーズ
確かに当たり前のことですね、しかし普通のことをきちんと丁寧にやり続けるっていうのが、意外と難しいものです。
講義ではサッカー選手の長友佑都さんの経験談も語られていました。
寺田先生は長友選手と対談して独自の栄養摂取法について考察を深めました。
サッカー部の諸君、期待して待っててください。
今年度の金曜講座は、終了となります。
また来年度、どのような内容の講座があるのか大変興味深いところです。
予告編
・プロサッカー選手の動きを解析したところ、45分+45分のうち低強度の動きが約90%だったそうです
・脂質を中心に使いながら必要に応じて糖質を使う運動形態が望ましい
・グリコーゲンローディングとファットアダプテーション、脂質と糖質のミトコンドリア内での代謝の話です
次回に続く・・・
No88 東京大学金曜講座で本校2年の女子生徒がオンラインで質問しました。
今年度の冬学期の金曜特別講座も残すところ今回を含めて2回となりました。
2月2日(金)の講師は工学部物理工学科の石坂香子先生による「光と電子を使った顕微鏡」でした。
顕微鏡がテーマなので生物系の話かなと思いきや、工学部の物理工学科の教授です。
バリバリの物理でした。
最初に物理工学科の説明でYou TubeのChannel物工の動画の紹介がありました。
ヨビノリたくみ出演のものもあるようです。
講座を受けて、本校の女子生徒の質問をしました。
「電子は波でもあり粒でもあるということだが、電子は一粒で波なのか集団として波なのか。」
という鋭いものでした。
答えは、一粒で波でもあるし粒でもあるとのことでした。
粒なら衝突しますが波なら重ね合わせの原理によって、すれ違います。
どちらでもあるとのことですが、どちらでもないような感じもして、んー何とも気持ち悪いですね。
アメリカ物理学会が選ぶ最も美しい実験10選では「二重スリット実験」が選ばれています。
この話については朝永振一郎の「鏡の中の物理学」の“光子の裁判”に光子のこととして、わかりやすく書かれています。
是非読んでみてください。
No72 東京大学 高校生と大学生のための金曜講座受講報告
去る12月1日は先端科学技術研究センターの都築怜理先生による講義でした。
まずは流体力学の基礎の話からです。
物質の三態のうちの液体と気体を合わせて流体といいます。
流体には粘性(粘り強さ)があります。
粘性には、
①せん断粘性 横ずれ方向の粘性
②体積粘性 体積変化に対する抵抗
③回転粘性 回転方向の粘性
の3種類があり、非圧縮性流体の支配方程式として、
①質量保存則
②運動量保存則
③エネルギー保存則
④状態方程式
があります。(私はこのあたりから「おいてかれる」感がでてきました)
その後は流体シュミレーションの話題に移りました。
都築先生のhttps://www.satoritsuzuki.org/galleryで検索してGALLERYを見てください。
息をのむような動画が現れます。
期末考査前でしたが2名の1年生が参加しました。
大学合格の後の世界を垣間見ることはモチベーションの維持につながります。
中学生の時に高校生活を想像できなかったように、今は大学生活や研究室(ゼミ)所属などイメージがつかめないでしょう。
それなら大学の講義を受けてみましょう。
面白がる自分に出会えるかもしれません。
というわけで今年の金曜講座はここまでです。
次回は来年、「西洋中世に発見されたあの世ー煉獄とは何か」
どんな内容か楽しみにしていて下さい。
No62 東京大学金曜講座 受講報告
10月20日(金)の講義は学際科学科の舘知宏教授による「折る・詰む・編む かたちがつなぐSTEAM協働」でした。
先生は、小学生の頃に折り紙作家の前川淳さんによる『悪魔』から影響を受け、折り紙や建築に興味を持ち形態(かたち)と機能(はたらき)の関係を理解したいと考えるようになったそうです。
機能から形態を導き出す作業は「設計」です。
逆は「かたちをよむ」でしょうか・・・適切な述語が思いつかないのですが。
「折る」とか「しわを作る」とかは日常にありふれています。
紙や布を折ったり服の袖にしわが寄ったり焼き魚の皮が身が縮むことでしわで模様ができたりします。
昆虫が羽化するときに縮まっていた翅が広げられたり、ヒトの大脳の表面のしわもその例として挙げられます。
1枚の紙から、しわを利用して立体にするのが折り紙といえるでしょう。
小学校の図工の延長に数学(幾何学)や建築学や美学があるそうです。
タンパク質もアミノ酸の鎖(線状)から自発的に立体構造を作り細胞の構造に寄与し機能を担っています。
https://www.youtube.com/watch?v=vwFhqnGAyxM
舘先生の動画を紹介しておきます。
きっとビックリしますよ。
ぜひ見てみましょう。
次回「多角的に史実を見る:北アフリカ植民地史研究の現場から」
講師:渡邊 祥子(東京大学 東洋文化研究所 西アジア研究部門・准教授)
以下講義概要です
この報告では、第一次中東戦争(1948─49年)の際のチュニジア人義勇兵運動を題材に、チュニジア・ナショナリスト指導者の視点、 フランス・イギリス当局の視点、義勇兵たちの視点からどのような史実が見えてくるか検討する。
民地史研究で用いる多様な史料を紹介し、歴史を研究する楽しさと難しさを学ぶ。
世界史選択でなくてもイスラエルとパレスチナの紛争について理解する一助になるかもしれません。
No19 金曜講座の報告
令和5年26日(金)の金曜講座は、東京大学先端科学研究機構の今泉允聡准教授による「深層学習の原理を明らかにする試み」でした。
今泉先生は、歴史学者になりたい希望を持ちながら理科Ⅰ類に入学し、3年生で文学部の歴史専攻に進学(文転)。
就職活動で思うようにいかずに修士課程(経済学研究科)に進み、経済理論やデータ活用について学んだそうです。
博士論文は「複雑データのためのノンパラメトリック回帰」。
統計数理研究所での勤務を経て現職へ就いたのだそうです。
文転と理転を経験しているからこその今があるのですね。
講義の内容は、人工知能AIブームの中核技術となる深層学習とは何か。
深層学習の基本は「関数」だそうです。
どういうことか分かりますか??
つまり何かしらの入力に対して、それに応じた適切な出力を出すという仕組み、ということです。
例えば有名な囲碁プログラムAlphaGoの場合、碁盤の盤面の情報が入力される度に次の一手を出力します。
自動運転システムの場合だと、道路の映像を入力として、歩行者の場所を出力します。
この繰り返し。常に考え続け、計算し続けているのです。
深層学習・機械学習の中身は関数で構成された多層ニューラルネットワーク、つまりヒトの神経回路を模した変換する関数モデルです。
ここから先の話をしたいという生徒は生物室まで来てください。
ゆっくり話し合いましょう。
今週は 「史料からみた地震・噴火」
講師の先生は東京大学 史料編纂所・教授杉森玲子先生です。
No17 東京大学金曜講座&東京理科大学坊ちゃん講座
先週、5月19日(金)の金曜講座は東京大学生産技術研究所の芦原聡教授による「美しい赤外光」のもつ可能性:分子を観る・操る、という話でした。
まずは光のお話から。
この世で最も速いとされる光の速さは秒速30万Kmですね。
1秒間で地球を7周半、地球から月まで2秒もかからないとかは聞いたことあるのではないでしょうか。
光は健康維持管理にとって大切な要素であり、現代では光通信や光ファイバーなど様々な技術に利用されており、人間が生きていくためになくてはならないものです。
光については紀元前の大昔から多くの学者に研究され、今では教科書にも載っている必須の知識となっています。
最近では17世紀にはイギリスのニュートンが「自然光(白色光)はプリズムで七色に分けられる」ということを発見しましたが、七色のうち、一番曲がりにくいのが赤、曲がりやすいのが紫だそうです。
この赤から紫までの光をまとめて可視光といい、赤い光の外側にも実は光があるのです。
おかしいと思いませんか?
見えない光をどうやって発見したのでしょうか。
これについて、ドイツのハーシェルが光と熱の関係について研究していました。
プリズムに分けた光に温度計をあて、どのくらい温度が上昇するかを確かめたところ、同じ条件では赤い光が最も温度を上昇させることを発見しました。
ハーシェルはさらに実験を行います。
プリズムに分けた光の外側にも温度計をあて、温度変化を測定したところ、赤い光の外側の温度が上昇するということから「目には見えないが、熱を伝える光がある」ことを見出したのです。
これが赤外線の発見です。
見えないものを見たのですから、んーすごい!
芦原先生、ありがとうございました。
生産技術研究所では「駒場リサーチキャンパス公開」が行われます。
希望する生徒が6月10日にうかがう予定です。
続いて、5月20日(土)は東京理科大学坊っちゃん講座がありました。
理学部第一部数学科の木田雅成教授による「√2が無理数であることを背理法を使わずに証明する」という講義でした。
ユーグリットの互除法から連分数を導き出し、近似分数に直して実数を連分数展開するという内容でした。
…難しいですね。
何を言っているかわからない、という生徒は生物室まで来て下さい。
数式を書かないと説明できません。
ちなみに円周率πは7分の22という分数でかなり正確に近似できるそうです。
近似値といえば小数で表すことがよくあるのですが、分数で表すこともあるそうです。
数学の面白さ、不思議さを感じた興味深い講義でした。
この回は本校の卒業生で理学部数学科の2年生が学生ボランティアで関わっていました。
Zoomの画面ごしでしたが、卒業生の元気な顔が見られてうれしかったです。
No11 東京大学 金曜講座
今回のテーマは、『「不思議」なる災害認識 ~鴨長明「方丈記」をよむ~』と題して文学部人文学科・准教授、木下華子先生の講義でした。
行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし
このようにして始まる方丈記の冒頭は「動的平衡」の核心をついて表現されています。
800年も前の歌人・音楽家が化学平衡の概念を理解していたとは思えないのですが、その洞察力と本質を見抜く力には驚かされます。
例えるなら、うちの学校では毎年360人ずつ卒業して入学していますが、外から見たら「所沢北高校という1000人の集団」が常にいるように見えている、というようなことでしょうか。
災害文学として知られている方丈記は、先の阪神淡路大震災や東日本大震災など大震災が起こるたびに「蘇り」ます。
災害時の記録・災害文学として享受されるその価値や魅力は確かな文学性に裏打ちされているという説明でした。
個人的に興味深かった内容は、方丈記の原本は残っていないということです。
その代わり、写本・諸本が複数あるそうです。
コピーやスマホでの写真などが無かった当時は手で書き写して諸本を作成するので、写し間違え(コピーミス)たり、一枚とばしてしまったりと少しずつ変わるようです。
長い年月の間に少しずつ種が変化していく、まるで生物の進化の系統樹のようにみえました。
きっと今後も変化し続けるのでしょう。
また、方丈記の五大災厄の冒頭の「世の不思議」という語にこだわって、その使用例やその語に当時の人が持っていた思いなど解明解析していました。
そこに文学研究者の覚悟というか美学を感じました。
講義の様子の写真中のスクリーンには等活地獄幅、衆合地獄幅、阿鼻地獄幅の絵が映されています。
次回は来週19日(金)で、生産技術研究所の芦原聡教授より『「美しい赤外線」のもつ可能性:分子を観る・操る』という講義が予定されています。